自動運転システムのような現代のロボティクスアプリケーションは、本質的に複雑な分散システムであり、そのオブザーバビリティは重要な課題です。物理世界の不確実性とソフトウェアの複雑性が絡み合うことで、デバッグやパフォーマンス分析は極めて困難となります。ロボティクスで広く用いられる ROS 2 にはトレースの仕組みがすでに存在しますが、クラウドネイティブ分野で成熟した OpenTelemetry などの知見が十分に活用されているとは言い難い状況です。
本セッションでは、この両分野における「オブザーバビリティ・ギャップ」を比較の観点から整理するとともに、近年の VLA(Vision-Language-Action)に代表されるマルチモーダルモデルの登場によってソフトウェアとハードウェアの距離が急速に縮まり、要件が高度化している現状を踏まえ、トレース中心で設計されるロボティクスフレームワークの動向を概観します。
具体的には、ROS 2 で従来用いられてきた ros2_tracing の概要と、ノーコード計装の一例としての eBPF の活用に関する論文にも触れながら整理し、さらに OpenTelemetry をネイティブに取り込む dora-rs のような次世代ロボティクスフレームワークの活用について紹介します。
参加者は本セッションを通じて、両分野に共通する分散システムの原則を軸に、ROS 2 の既存手法とノーコード計装、OpenTelemetry 適用の観点を学ぶことができ、隣接領域の実践を自らの開発へ応用するための視点を得ることができます。